美術系に進むことは得か?損か?
クマビとして言いたいことは「美術系に進むことは得です」ということです。その根拠は、あなたがもし心身共に健康な人なら今まで思い描いてきた夢を叶える可能性が十分あると言えるからです。又なんらかのハンディーを抱えた人でも前向きに努力してハンディーを乗り越える覚悟を持っている人なら同様です。
人生は夢を叶える人生を歩む人と夢が叶わなかった人生を歩む人に分かれます。
クマビは夢を叶える人生があることを教える学校なので「美術系に進んだ方が得です」と断言します。
クマビが断言できるのは美術の世界で仕事をして、大きさの違いがあれど大なり小なり夢を実現した実感があるからです。美術の世界で夢を叶えている人の殆どがはじめる前の段階で眼を見張るような才能を見せているわけではありません。むしろその逆です。自分の興味のある高い壁を超えるわけですから、その壁を超えることは誰でも容易ではありません。誰でも最初は全然だめで時間をかけて技術を身につけて描いたり、作ったりできるようになっていくと断言できます。こんなことをいうと美術に対して神秘的なイメージを持っている人のイメージを壊すようで大変恐縮ですが、実際に今までに大勢の学生が夢を叶える姿を見てきましたが、その彼ら全員が初心者の段階から訓練せずにきらびやかな才能を見せ付けるような人ではありませんでした。美術の世界で無類の才能を発揮する人がいますが無類の才能を発揮した全員に共通することがあります。それは年月とその間に人と比較にならない制作時間をかけているという点です。成功した人の影で成功しなかった人にも法則があります。それは制作時間のかけ方が足りないということです。勿論いたずらに時間をかければ良いというわけではありません。真摯に問題に向かい合って意味のある年月を過ごさなければなりません。
少なくとも美術予備校や芸大美大の先生は口を揃えて「あなたには可能性がある」と言うと思います。
可能性があると断言できるのは、美術の世界で夢を実現した人間全てが美術をはじめた時は不安で、不安と闘いながら結果が出るまで頑張ったからです。私(小平)の場合は高校2年生の時に当時東京芸術大学の学生だった高校の先輩を頼って東京芸術大学の中を見せてもらいに九州から出てきたことがありました。先輩の友人の芸大生は私に当然のように「芸大に来るんでしょ」や「大丈夫!頑張れば入れるよ」といった言葉を投げかけてきます。30人位には言われたのを覚えています。その全員が御世辞ではなく心から本心を言っている眼をしていたことも良く覚えています。今はその時の芸大生と同じ感じ方です。当時の私は芸大に入りたいのは山々でしたが倍率(当時50倍程度)からして入れるわけはないと考えていました。その日から芸大に合格するまでの毎日は、いつもかわらずどこか不安で、「本当に入れるわけない」と思いつづけていましたが、実際に合格してからは「頑張れば必ず結果は出る」「チャレンジして良かった」「途中で辞めなくて良かった」と実感します。合格した人は「才能があるから合格した」と考える人が多いと思いますが、才能は結果には直接関係ありません。結果に最も大切なことは才能に勝る努力です。努力をして良い作品を作ることができれば倍率も気にする必要はありません。
追いかける夢が大きければ大きいほど達成するまでの不安は大きい物です。達成した瞬間までは競争相手や倍率などが気になり不安に押しつぶされようになります。その気持ちもわかりますし、やればできるということもわかるので、これからはじめる後輩や夢に向かって途中で不安に押しつぶされて夢を投げ出して辞めて欲しくないと思い「頑張れば必ず結果は出る」ことを本心から教えたいと思います。
夢を達成するために大切なことがあります。それは努力をすることです。美術をはじめたばかりの人の殆どが最初は心が弱いものです。夢に向かって失敗を繰り返しながら少しずつ心を磨き精神力を高めます。
達成する前は不安に押しつぶされそうになりますが、達成する前と達成した後では見方や考えが変わります。達成した後の人にだけ見えるようになることがあります。それは「何をどれだけやればそれが達成できるのか?」ということです。達成する人とそうでない人の差は思いのほか大きいものです。言うなれば努力をしてブラッシュアップを繰り返し、作品がある時あるレベルを超えれば確率に関わらず必ず達成します。それがわかれば新たな高い目標に向かう時に小さいことを考えずに徹底的に前に進み、必要なレベルを超えることに専念できます。
美術の世界のことはわかりづらいので「博打」と思われていることもあるようです。美術の仕事に運が作用することは一般の仕事と変わらずあります。ただ、運も才能のうちです。運よりも才能や実力の方が実際は上回ります。なぜなら美術の世界は物のことわり(理)によって人間が頭で動かしている世界だからです。運は実力の中でおきている物事です。芸大美大受験や仕事には多少の運が関係します。しかし、運が美術で仕事をする人間としての命運までを分けることはありません。理由は実力の無い人が一時的に運で仕事を手にしても、実力がなければ継続せず、実力のある人が運で大きな仕事をその時得られなくても、実力のある人はいずれ大きな仕事を掴むからです。
「得とは何か?」
誰もが美術系に進学することが得策?と考えるなら美術系に進むことを反対する人はいません。美術の世界の人間の多くはこれから美術の道に進もうとする人に向けて余り具体的な形は要求しないと思います。理由は表面的な形よりもその人の感性を伸ばすことや潜在的に眠っているものを引き出そうと考えるからです。将来具体的につく職種や仕事は芸大美大(専門学校)に入ってから恵まれる「人との繋がり」によって決まっていくことが多くなります。自分から具体的に職種と仕事を決めてそれを形にする人もいますが、力づくで実力行使できるかなりの剛腕を持った実力者であることが多いように思います。美術の外の世界の人はどうしても情報の少ない美術の世界に不安を覚える人が多くなります。懐疑的になり、これから美術の世界に入ろうとする人に本当に大丈夫か具体的な答えを求めたくなります。これから美術の世界に入ろうとする人に美術の世界についての具体的なことを理解して説明しろといっても、ある程度漠然とした知識は得られても実体験を得ていない人にはっきり理解して説明させることは不可能です。美術の世界の具体的な話しは美術の世界である程度経験を積んだ人間に聞くほかありません。
美術系に進むことを反対する人の反対の理由として一番に挙げられるのは収入の問題だと思います。美術系に進んだ方が将来安定し、多くの収入が得られるように考えられるのであれば、収入面で反対されることはありません。
美術の世界は外側から見えることはありませんが、れっきとした社会生活を営んでいる社会人の集まりです。稀に破天荒な人がいたり、馬鹿なことをする大物がいて、美術の世界は変わり物の集まりのようなイメージを与えてしまっていると思いますが、ほんの一握りの大物や変わり者をのぞくと殆ど全員が普通に美術の仕事を真面目に地味にこなし、収入を得て、きちんと安定した生活を送っている様子が見える世界です。そうでなければ皆さんの周りに溢れる美術の世界の人間の手がけたデザインは現在のような形を留めることができず夢幻のように消え,世の中は色のない世界に変わり果ててしまいます。身の周りにある全ての人工物がデザイナーの手によってデザインされています。それらを手掛けたデザイナーは日本中に凡そ数万人います。
毎年新しい感覚を持ったデザイナーが誕生します。日本には美術系の専門学校だけで100校弱あります。年によってムラがあるので正確な数字を示すことはできませんがその中から企業に就職する学生が少なく見積もって1校10人で1000人程度。大小デザイン事務所に就職する学生が専門学校の生徒の半数程度(美術職)で就職します。専門学校は人数の少ない所で1学年50名程度。多い所では1学年300人以上いますから平均すると少なくとも3000人以上は美術職で就職していることになります。大学や学校に行かない人を含めると毎年1万人以上のデザイナーが生まれ皆さんしっかりと生活していると考えられます。(美術職は様々な理由から入社後数年で辞める人が多く、1~2年で半分程度辞めるとも言われていますがそれでも相当な数のデザイナーが仕事をしています。)
毎年多くのデザイナーが生まれていますが、主な収入を得る手段のイメージは次のようなものだと思います。
「収入を得る手段」
・学校の先生になる
・自分(フリー)で事務所を開く
・企業に就職する
・小さなデザイン事務所で働く
・仕事をしない
・芸術作品を販売する
・他の仕事をしながら作品を作る
以上のようなものだと思います。この中で殆どの人は企業に就職するか小さなデザイン事務所に就職しています。
美術系の中で仕事をしている人のタイプは仕事をつくまでにどのような方法でスキルを身につけてきたのかによって分類することが可能です。
「スキルの身に付け方」
1.東京芸術大学出身
2.武蔵野美術大学/多摩美術大学出身
3.芸大美大(①②以外の)出身
4.専門学校出身
5.学校を出ていない
「収入を得る手段」は「スキルの身に付け方」によって大きな違いがあります。この違いによって美術系の仕事は一般的に大きな誤解が生じているように思います。
最後に収入面以外にも美術が得策になることがあるので付け加えておきます。
<美術が得策になる>
①世の中にはやりたいことをやれなかったことを一生後悔して生きている人が大勢います。後悔しない生き方をすることは得策と考えて良いと思います。
②「誰にも形にできなかったもの」他の人にまだ証明できないが自分には確信があるという場合は得策になるように思います。
③自分の雇い主が事業に失敗した場合、自分も職を失います。良いデザイン。面白い漫画。綺麗な絵や彫刻を作る力。実力を身に付けることが得策になります。
④生活の不安があるので何か仕事をします。ただ、同じ仕事をするなら生活のことだけ考えてするのではなく世の中のことを考えて仕事をします。世の中に役立つ仕事をする人が生活できないということはありません。美術は生活の不安を払いのける確実な得策になると思います。
美術に進むための処方箋